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東京地方裁判所 昭和47年(むのイ)372号 決定

主文

本件準抗告を棄却する。

理由

一、本件準抗告申立の趣旨及び理由は、検察官提出の「準抗告申立書」記載のとおりであるからここにこれを引用する。

二、一件記録によれば、被疑者は、別紙第二記載の爆発物取締罰則違反(爆発物使用)殺人未遂被疑事件について、昭和四六年九月二五日逮捕され、同月二八日東京地方裁判所裁判官により勾留状発布、同年一〇月六日勾留延長(同月一七日まで)の各裁判を受け、同月一七日勾留期間満了により釈放されたこと、さらに被疑者は、昭和四七年五月一八日爆発物取締罰則違反、殺人未遂(別紙第一、第二、の事実)を理由として再び逮捕され、同年五月二〇日東京地方検察庁検察官より東京地方裁判所裁判官に対し、別紙第一、第二の各事実について勾留請求がなされたところ、同裁判所裁判官山之口健は、別紙第一、の爆発物取締罰則違反(爆発物製造)の被疑事実については勾留を認めたが、同第二の爆発物取締罰則違反(同使用)、殺人未遂の各被疑事実については、再度の勾留請求であつて不適法であるとして勾留状の被疑事実にこれを記載せず、第一の事実についてのみ勾留状を発布したことが認められる。

三、ところで、本件の如く、裁判官が検察官の勾留請求にかかる第一、第二の被疑事実のうち、第一の被疑事実のみにつき勾留状を発布した場合においても、どの被疑事実につき勾留状が発布されるかは検察官にとつて捜査上重大な利害関係があり、第二の被疑事実について勾留状が発布されなかつたことを不服の理由とする準抗告はその利益があり、本件申立は適法である。

四、さて、同一の被疑事実につき、先に逮捕勾留され、その勾留期間満了により釈放された被疑者を、その後の単なる事情の変更を理由として再逮捕、再勾留することが刑訴法の被疑者の身柄拘束に関する厳格な制約に照らして好ましくないことはいうまでもないが、他方で再逮捕、再勾留がおよそ許されないものと解することもできないのであつて、刑訴法一九九条三項の趣旨、逮捕勾留の密接不可分の関係等からみて、刑訴法は例外的であるが同一被疑事実につき再度の勾留を許していると解される。ただその要件は厳格に解されなくてはならぬのであつて、何よりも身柄拘束の不当なむし返しであつてはならず、また単なる事情の変更に止らず、当該被疑事実について被疑者の身柄を拘束しなければ捜査上著しい支障を来たす上、他に適切な手段がない場合であることを要する。

五、ところで本件においては、原裁判官は被疑者の身柄を釈放したのではなく、別紙第一の被疑事実については刑訴法第六条第一項各号に該当する理由ありとして勾留状を発布しているのであるが、右第一の被疑事実と第二の被疑事実との間には、前者(爆発物製造)が後者(爆発物使用、殺人未遂)の準備行為ないしは手段目的の関係にあるばかりでなく、実行行為の日時場所も極めて近接しているのであつて、両被疑事実相互の関連性は極めて密接である。従つて右の第一の被疑事実を捜査する際右第二の被疑事実は重要な情状ないし第一の被疑事実を補完する事実として、その捜査の対象に含まれると解することができる。そうすると、本件のような事情の下において、第一の被疑事実による勾留中(第一の被疑事実それ自体もその罪質、事案の性格は決して軽微とはいえない)捜査官が第二の被疑事実につき被疑者を事実上取調べることが可能であると解しても何ら不当に令状主義を潜脱するものとは云い難い。

六、してみると、本件においては、別紙第二の被疑事実につき再勾留しなければ捜査に著しい困難を来たし、他に適切な手段がない場合にはあたらないものと考えられる。そうすると、別紙第二の被疑事実について再度勾留を繰返すことは、起訴前の逮捕勾留につき厳格な時間的制限を設けた法の趣旨に反するものであつて妥当とはいえず、結局において別紙第二の被疑事実につき勾留状を発布しなかつた原裁判は正当である。

よつて本件準抗告は理由がなく、刑事訴訟法四三二条、四二六条一項によりこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(海老原震一 秋山賢三 肥留間健一)

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